正しく綴りを見分ける能力について
- Sachiyo TAKANAMI
- 2015年11月30日
- 読了時間: 4分

PC利用者にとっては,スペリングチェッカーはとても便利な機能です。しかし,「正しく使いこなす (あるいは,修正候補から正しいものを選ぶ)」ためには,まず「正しい綴りを書ける状態」でなくてはいけないということがこれまでの研究で指摘されています。
つまり「正しく識別できない人」は「正しく書けない人」である可能性が非常に高く,その逆もまた然り,ということです。これは私の博士論文における調査でも明らかとなりました。
(この話はまた別のときにまとめておこうと思います。)
例えば,difficult という綴りを打ち間違えて *dificult (f 抜け) とタイプした場合,スペリングチェッカーは自動的に修正してくれます。このような場合は自分でも気づかないうちに親切に修正してくれるので,間違えたことには気づかないかもしれません。利用者の打ち間違える確率が高い単語などは自動修正の候補とされています。
(※利用者の母語によって間違え方は異なる場合があります。)
次の例を挙げます。
curtain (カーテン) という単語を仮に,*cartain とタイプしてしまった場合,赤の破線で注意喚起されますので指示に従って右クリックをすると【修正候補】が幾つか出てきます。
certain
curtain
captain
carta in
この例では多くの人が正しく2つめの候補で出てきた curtain を選べるのかもしれませんが,こちらの単語はどうでしょうか?
pick と打とうとして綴りを忘れてしまい,何となく音からイメージして *pikku と打ちこんだとしましょう。英語の発音が正しく理解できていれば,このような音からの類推はあり得ませんがあくまで極端な例として挙げてみます。
日本人英語学習者は,日本語の音韻感覚に引きずられて語末に余計な母音を挿入してしまうエラーが多いと言われています。日本語で「ピック」と思いながら書いてしまった場合を想定して,この例にしました。
*pikku の修正候補は以下のように出てきました。
pike
pick
pickup
picks
pukka
このようなときに,語末が<u>になっている修正候補は出てきません。語末の<u>は絶対にあるものだと,こだわっている場合は混乱してしまうかもしれません。
疑問に感じた時に,辞書で確認するクセがついていれば良いかもしれませんが,全員がそうするとはいえません。pick のような比較的易しいよく目にするような単語であれば,実際にはこの候補から正しく選べる人が多いかもしれません。今回は極端な例として挙げています。
(調査データに基づいた例ではありません。)
修正候補から選べないという問題の他に,もうひとつ,「実在する別の単語を書いてしまう」という誤りを挙げることができます。
実在する別の単語を書いた場合は,修正のお誘いや提案は表示されません。例えば…
river: 【名詞】川
liver: 【名詞】肝臓
全く違う単語ですが,どちらも実在する単語ですので,スペリングチェッカ―としては特に働いてくれません。前後の文脈から判断して「あなたは本当はこっちの単語を書くつもりじゃないんですか?<r> と <l> の書き間違いをしてますよ!」というような手助けはしてくれないのです。そこまで親切ではありません。
何度も見直しをしても,このような初歩的な間違いに気づけず自分の書き間違いを見落としてしまうのだとしたら,その場合は綴りを正確に書けない可能性も考える必要があります。
綴りが苦手なことに気づかず英語を使っていると,綴りを間違えてしまう(しかも正しい綴りが選べない)人というだけでなく,正しい発音が分かっていない人,とみなされてしまいます。
river と liver,この2つの単語は全く異なる発音ですので,正しい発音と正しい記号(アルファベット)を結び付けられる人は絶対にしない間違いなのです。ネイティブスピーカーの間ではこのような間違いは見られず,むしろ日本人に多いのが,この<r>と<l>の書き間違いだそうです。
一見,上記に挙げたような事柄は些細なことのように思われるかもしれません。しかし,積り重なれば大問題です。
本当に単なるケアレスミスなのか,綴りの認識に関して何かしらの深刻な問題を抱えているのかは,慎重に判断する必要があります。
自分はケアレスミスをしやすいタイプだから…と簡単に判断するのは危険です。
もしも仕事で書かなければならなくなった英文メールを,スペリングエラーだらけで書き終え,しかもそれに気づかずに送信してしまったら…受け取り手はどのような印象を抱くでしょうか。
「正しい綴りを書くことの意味」を,時間を見つけてまとめていきたいと思います。
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